がん患者の社会的苦痛を支えていくために ~医療従事者とFPが協働していくメリット~ 黒田ちはる

10年間の看護師経験を活かしたファイナンシャル・プランナーとして、がん患者専門の家計相談事務所を開業し、もうすぐ2年となる。

現在は、NPO法人がんと暮らしを考える会に所属し、社会保険労務士と共に医療機関でのお金と仕事の相談事業に携わっている。

「お金の相談」と説明すると医療従事者からは医療ソーシャルワーカーの分野ではないかと言われることも少なくない。相談業務を通じてわかってきた医療従事者とFPの相談分野の違いと協働していくメリットについて述べていきたいと思う。


各専門職の役割の表を見ていただくと分かる通り、お金と仕事の専門分野や詳しい制度、サービスの違いは明白である。

現在医療現場で行われている患者相談では公共性の高い制度が中心であるが、疾患を抱えながら生きていく患者とその家族を含めた生活を支えていくためには公共性の高い制度のみでは限界がある。

生活困窮者に関して日本はセーフティーネットがあるが、中間所得者層で生活をやりくりしてきた方が長期的な治療が必要になった時の支援は整っていないのが現状である。

しかし今まで努力し積み上げてきた資産性のある財産を活用することで、治療費や治療中の生活費に充当できる可能性は十分にある。


ここに必要となってくるのが金融資産のしくみに関する知識と治療スケジュールや病状の見通しをつけた生活設計の立て直しである。

生活設計の立て直しは、社会生活の自律支援であり、疾患を抱えながら生きていく患者とその家族を含めた生活を支えていくためには必要であると考えている。

近年治療と仕事の両立支援が各地で進んできているが、この支援にもFPが介入する意義は大きい。


例えば、がん患者が働く目的として「生計を賄うため」「治療費を支払うため」という切実な項目が挙げられている。

綺麗事では済まされない切実な事情を抱えながら働かざるを得ない患者も多く、このような場合には就労支援とともに経済面の支援を行っていくことが無理をしない働き方や休職、退職への意思決定支援にも効果が期待できる。


ここまで説明すると、必要性を理解した医療従事者の中にはFPの知識を習得し、ワンストップで公共性、資産性のある相談を行おうとされる方もいるが、推奨はできない。理由は次の3つである。

①「本来の業務に支障を来たす恐れ」

医療現場でも日々治療内容や診療報酬の改定などで相談業務の内容が変わりつつあるが、FPの分野も毎年制度の改正があり、それぞれが常にブラッシュアップしながらサービスの提供をしている現状があるため、結果的に相談対応できる患者数も減ってしまう可能性もある。

②「医療の範疇を超えている」

相続の問題など絡むケースや今後の生活を左右する経済面の話は医療従事者がサービスで行えるものではなく、専門家が介入していくことで経済面でのトラブルの回避やより専門性の高いアドバイスの提供につながる。

③「医療従事者と患者家族との近さ」

一番近くで寄り添っている医療従事者にとっては、患者家族の経済面を数字でリアルに知ってしまうことは、今後のケアにとってメリットよりもデメリットの方が大きい。


医療従事者とFPがそれぞれ専門性を活かしていくことで、より包括的な社会的苦痛のケアとなり得る。

また、病院内だけでなく、行政、金融機関や保険会社といった病院外との経済面の連携も必要である。

私がファイナンシャル・プランナーの道を選択したのは、経済面のコーディネーター役としても最適だと考えたためである。


医療従事者が実際に行える社会的苦痛のケアとして、早期に公的・民間制度にたどり着くツール「がん制度ドック」を紹介する。

実際に医療現場でも活用されており、インターネット環境であればどこでも利用できる無料の制度検索ツールである。

制度はたくさんあっても、個々に異なる社会保険の加入状況や、今の体調で利用できる可能性が変わってくる。

これら条件に合った制度を検索し、申請の準備、各窓口にたどり着くまでに労力を要してしまう。

この検索をサポートすることは、患者への社会的苦痛のケアの役割としても大きいので、ぜひ活用していただければと思っている。

更に踏み込んだ制度や家計の個別性のある質問に対してはFP・社会保険労務士による電話相談「がんと暮らしのヘルプデスク」でも対応しているので、医療従事者は抱え込まず専門家を活用してもらえたらと思っている。


患者にとって一番身近な医療従事者だからこそ行える経済面での関わりとは、患者が考えるタイミングを作ってあげられることである。

患者がどのような生活を望んでいるのかを向き合って一緒に考えていく関わりが大切だと考えている。

この関わりの一環として医療現場でFPを活用してもらえることで、より包括的な社会的苦痛のケアにつながるだろう。


黒田ちはる




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